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二兎を得るか、一兎をも得ざるか

自作孵卵器でヒヨコを孵化させる【その1・製作〜試運転まで】

地元関西と東京を往復している生活ですが、先日帰省の途中に道の駅に立ち寄ると烏骨鶏の有精卵があり、衝動買いしてしまいました。
大昔に孵卵器を作ってヒヨコを孵したことがあったため、なんとか思い出しながら簡易孵卵器を大急ぎで製作し温め始めたのですが、まあ…… 久々に作ると大失敗でした。

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以前に自分の手で作ったのは15年以上前で、しかもその時は完全に自分で作ったとも言えない(父親がかなり手助けしてくれた)。 産まれてこれなかったトリたちにも申し訳がたたないので、ちょっとガチめに作ってみることにしました。

趣味といえば趣味ですが、これはまた養鶏の一部になるので、家業である農家の仕事でもあります。

(注:地域移動はコロナ対策のため、接触機会の少ない自家用車による必要最低限の移動に留めています)

製作上の要点

そもそも孵卵器ってなんなん? というのは各自ググっていただくとして、今回作る孵卵器で(あるいは孵卵器というもの全般に関して)欠かせない設計要素を挙げてみます。

  • 外装はしっかりした硬質素材で作り断熱構造にする
    以前:段ボール製で温湿度共に拡散しやすかった
  • 庫内で温度ムラが発生するため常時稼働の循環ファンを設置する
    以前:卵1個1個の温度が異なっていた可能性(失敗した各卵の中止時期がずれていた)
  • 転卵装置は極めてゆっくり動かし、同じ角度になってしまわないように確実に回す
    以前:転卵後に1回転して同じ角度になることや、サーボの急な動作で衝撃を与えることがあった
  • 電気的な温湿度センサだけに頼らず校正できるようにする
    以前:家に置いてあったAM2302センサ、精度はいいけど経年劣化してるかもなので、補正パラメータをいれる
  • 温度制御は空気循環+ON/OFF制御でシンプルに安定させられるか試す
    以前:PID制御だが空気循環していなかったのでかなり不安定だった

これらを満たせるクオリティの孵卵器をしっかり作ってみようと思います。

素材調達

設計図を書いてから必要部品を買いに行くのではなく、まず店に行き使えそうな部品を探しながら頭の中で設計していきます。
そのため結果的に利用したもののみ示しておきます。

家にあったもの

  • ひよこ電球(ヒーター)
  • ESP32
  • 自作の制御基板
    • SSR(ヒーター制御用)
    • 温湿度センサAM2302
    • 12V動作のPC用排熱ファン(電圧変換付き)
    • 転卵用サーボモータ

家にあったものの大半は、以前に作っていた孵卵器からの流用です。

ホームセンター(ダイキ)

100円ショップ

  • アルミシート
  • プラスチックボンド
  • パウンドケーキの型枠容器
  • 卵パックが入る細長いプラスチックバスケットケース

近くの道の駅

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今回の種卵です。
地鶏の卵も普通よりは高いですが、烏骨鶏卵は1個300円ちょっとします。こんなん食用にできない。。
孵化率をあげるためには産卵してからなるべく早く加温することが重要ですが、あえて先に調達しておくことで作らざるを得なくさせる、という効果もあります。

つくる

今回の記事では電子工作やソフトウェアよりも、そこいらへんで売っている安い資材を使って筐体を作るところをメインに書いていきます。

制御装置と基板まわり

(配線図)

制御装置は大まかに上記のようになっています。
温度センサとヒーター制御で一定温度を保つ機能を最低限とし、状態を表示できるディスプレイ、さらに一定時間ごとにサーボモータを動かして転卵を行う機能、Wi-Fiに接続してIoTデータ可視化サービス「Ambient」に温湿度変化を送ってリモートで確認できる機能をつけました。
湿度調整のための排気ファンもついていますが、今回は湿度調整は水入れ容器の形状工夫で行うとして、このファンを庫内で常時稼働させることで内部の空気を循環させ、温度ムラをなくすようにしています。

ambidata.io

もともとArduinoで実現していた制御をESP32に置き換えたため、オンラインで制御状況が確認できるようになった、という感じです。
ESP32は素のままでも同じ回路が作れますが、今回は以下で作った自作基板をベースに製作しています。

protoout.studio

ソースコードはまとまったらGitHubにあげて公開しようと思います。

外装容器

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容器は内側サイズがB3とほぼ同じプラスチックケースを買ってきました。中身が見れるようにと透明のものにしましたが、断熱性を高めるため、底面と側面3箇所にアルミシートを貼ります。ポリプロピレン対応のプラスチックボンドが必要です。

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貼っていない側面に寄せるようにして、ヒーター役のひよこ電球を配置してみました。
ひよこ電球はあらかじめ、木枠にソケットを固定した什器を作っておきます。電球表面はかなり高温になるため、プラスチック材には近接すらさせないよう注意しなければなりません。容器の端に寄せる場合はこのような細々とした工作が必要になってきます。

転卵装置

転卵については、以下の孵化場で実際に使用されている転卵装置の仕様を参考にして、縦向き(長軸が地面に垂直)に静置した卵を70分間おきに120度傾けることができるギミックを作ります。

takakis.la.coocan.jp

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100円ショップで買ってきた、卵パックがぴったり入りそうな容器(正直言うとあとで合わせたら偶然ぴったり入った)を、シーソーのように揺らすイメージで考えます。片方の軸はフリー状態とし、もう片方はサーボモータによって回転させられるようにします。

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サーボモータはケースに直結させず、円盤型サーボホーン(丸いプーリーみたいなもの)が回るときに突起(ここでは2本のネジ)がケースのフチを引っ掛けて回るようにしておきます。
直結状態だと、0度あるいは180度といった末端角度まで回したときに卵が転落する危険性がありますが、この方法だと突起間隔を調整することで構造的に最大角度を決定することができます。

また電源投入時に、最初の入力デューティ比に対して実際のサーボ位相が異なっていた場合、急激に回転して胚に衝撃が伝わり死んでしまう可能性があります。直結せず遊びの区間を設けることで、急回転時の加速度を和らげることができます。

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転卵装置は外装容器に直接設置するため、外装容器を加工してゆきます。
手始めにサーボモータがつながっていない側の軸を設置します。
鍋ネジを外側からねじ込み、外装容器側面を挟むように内側からナットで締めます。この鍋ネジは回転せず側面に固定されていて、転卵のケースの側面に開けた大きめの穴にここを引っかけてフリー回転の状態にします。

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反対側はサーボモータを固定する大きい長方形の穴をあけます。最初に軸芯の位置をマークしてからサーボモータを合わせ、切り取り線を書きます。

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ここ、一気にカッターで切りたくなるんですが、この手のプラスチック容器はある一定以上の剪断圧力がかかると一気に割れてしまうことがあるため、絶対にやってはいけません。
代わりに、切り取り線に沿って一定間隔で、ハンドドリルを使って穴をあけていきます。
割れは角部分から発生することがほとんどなので、角は必ずドリル穴にします。そうすると角丸になるので、壊れる危険性がいくぶんか減ります。

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あとはドリル穴の間をカッターで少しずつ切り開けば、このように四角く抜き取ることができます。繊細かつ力のいる作業、縁日の型抜きみたいな感じでしょうか。
おおよその軸芯位置が反対側とずれていないことを確認します。

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サーボモータからホーンを一旦取り外して本体だけにした状態で穴に入れ、短めの鍋ネジとナットで4箇所固定します。

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転卵用ケースの側面に軸を通せる穴をあけ、内部に設置します。いずれの軸も転卵用ケース側には固定されないのでユルユルで大丈夫です。
サーボモータ側は大きめの穴をあけ、転卵用ケース内側からサーボホーンをサーボモータ本体に接続し、付属のネジで固く締めすぎないよう適度に固定しておきます。

部品配置・配線

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現時点で設置可能な部品を置くとこのような感じになります。
ひよこ電球の上にはパウンドケーキの型として使えるアルミ製容器を置き、水を入れ下から加熱することで蒸気を発生させます。

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さらに、空気循環用のファンをひよこ電球と転卵装置のあいだに置きます。とりあえず庫内で空気が循環できればよいので、風を送る方向はどちらでも大丈夫です。
このあとで制御基板から出ている温湿度センサを庫内に設置しますが、どうやら測定値に少しズレが出ていたりするようなので、市販の温湿度計を庫内に置いた状態で試運転を行ってあとでキャリブレーションします。
(使っている温湿度センサAM2302、新品は非常に精度もよく信頼がおけますが、長年使っているためヘタってきているもよう)

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庫内の電源ケーブル類を外に引き出すため、先述のハンドドリルを利用する要領で四角く穴をあけます。外装容器のエッジ部分はコの字型に折れ曲がっていて強度を担保している構造のため、それを壊さぬように注意します。

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ふたを問題なく閉じることができたら、その上に制御基板類を載せます。
あとで両面テープとかで固定するので適当に置いています。
これで大体は完成です。

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側面から見た状態です。ごちゃっとしています。
このあたりがすっきりきれいにまとまってユニット化できたら市販できるかもと思いつつ……

ひとまずこの状態で、ダミーの卵と市販の温湿度計を入れて1日ほど試運転をし、温湿度の安定を見極めたいと思います。


つづき xor.hateblo.jp